2016年2月8日 のアーカイブ

ライター小川志津子の、決戦前夜密着記

2016年2月8日 月曜日

この場所からの景色を、私はとてもよく覚えています。
2012年3月。「あいにいく」という自主制作サイトで、
創作市民劇を制作中の亀尾佳宏先生を取材するために、
まず最初に足を踏み入れたのが、この空間でした。
http://www.ai-ni-iku.com/ai-ni-iku/ep01/ep01_01.html

チェリヴァホールの、上手寄り最後列。
客電がついていてもなお薄暗がりのこの場所から、
私はどぎまぎしながら、準備が進む舞台上を見つめていたのです。

そこから4年近くが経って、
私はまた、同じ場所から、同じ舞台を見つめています。

あの時、亀尾先生がいた席に、
今は、サイトーくんが、着いています。

あの時は俳優として、亀尾先生から大きな信頼を置かれていたサイトーくんとオーハラさん。
音響卓で、大学を辞める辞めないで揺れ揺れの心を明かしてくれた、ちみちゃん。
だいすけくんも照明卓で、助っ人として参戦しています。
とても懐かしい顔ぶれです。けれどあの頃とははっきりと、みんな違う顔をしている。

今その成長と変化のグラデーションを、一生懸命思い出そうとしているのですが、
なかなか記憶が像を結びません。

彼ら彼女らは今、劇場で、それぞれの作業をしています。
今日は公演前日。舞台セットも組み上がった状態。
とても静かです。

この日の朝、書き上がったという原稿を、
彼らは明日の13時までに、1本のお芝居に仕立てあげなくてはなりません。
現在、15時40分。

台本持ってきましたー
まっつんこと、松浦くんが劇場に入ってきます。
みんなが舞台際に集まって、何やら話をしています。

ここから先は、この場所から見える景色を、書いていこうと思うのです。

15時53分。
冒頭から登場するサイトーくんと元晴くんが、
できたてほやほやの台本を手にして、初めての立ち稽古です。
そう、初見でいきなり立ち稽古。
多くのカンパニーが数日間、あるいは一週間かけたりもする「読み合わせ」を、
全面的にすっとばしての立ち稽古です。

役柄上、上から場を仕切る係を任せられた元晴くんのつぶやきが聞こえます。
「うわあ……僕が一番ニガテとするところじゃないっすか……」
「大丈夫! 落ち着けば!」サイトーくんが言います。
それが一番難しいんじゃないのか。と思ったりしたりしなかったり。

16時10分。
今回、カメオ出演する亀尾先生が劇場入りです。
その出演シーンを、サイトーくんと元晴くんが先生に説明しています。
にわかに湧き上がる男3人の笑い声。

……つまり、さっきまでの立ち稽古、一時中断。

エンゲキをとりまく時間というのは、こうして複雑に絡み合いながら、
まるで魔法のように、あっという間に過ぎるのです。
古今東西。万国共通。

16時30分、立ち稽古再開。
一語一語のテンポやトーンを確かめながら進んでいきます。
すると台本を全部読み終えた亀尾先生がやってきて、その感想を言い、
「ここが弱いんじゃない?」「こうしたらいいのかも」的な話が始まりました。

……あれっ。さっきの立ち稽古……。

IMG_2013

時間を追うことはもうやめよう。
密着ライターはそう悟ります。
ここで大切なのは時間の整理整頓ではない。
彼らがこの状況で、どれだけ前を向いているか、なのです。

照明卓ではオーハラさんが、着々と明かりを作っていきます。
こういう時のオーハラさんが、実は大好きなのです。
見せたい絵が、具体的にある。それをみんなに、はっきりと示す。
状況が変われば即座に対応。焦らず、臨機応変に。

客席前方に目をやると、亀尾先生が元晴くんのせりふ合わせにつきあっています。
「つきあう」っていうか「本意気」です。
だって一分のすきもなく、すべてが前に進んでいなくちゃいけません。
総力戦。劇団員じゃない人もひっくるめて。

さあそろそろ「動き付け」をしようか。
……いや待て、それを「バミる」ためには、
舞台上の装置の位置を決めなくちゃならない。
あの家具があそこにあるということは、照明を動かした方がいいのかも。
今あるものだけじゃ物足りないかな。もっと何か持ってこようか。
いやいや、今は、劇場でしかできない作業をしようよ。

劇場全体を見渡すと、何とも、とりとめがないのです。
けれどこの先に、何らかの成果が、つながっているのだと信じるしかない。

あきふみさんの出演シーン作りが始まります。
サイトーくんが動きを説明して、明かりをつけて、実際にやってみます。

……100点。

「あきふみさん、今の、100点です! 僕の想像通り!」

仕事を終えたこまちゃんも参戦します。
歌を披露します。見せ場がたんまりとあります。
でも、動じてない。にこにこと指示を受けています。

サイトーくんの指示も揺らぎがない。
すーっごいくだらない芝居を、すーっごいまっすぐにつけています。

365日の経験値を、なめちゃいけません。
エンゲキにまつわるあらゆる筋肉が、彼らには今、
最高潮につきまくっているのです。○イザップもびっくり。
台本完成の翌日に本番なんて朝飯前、ちゃんちゃらおかしいのです。

成長と変化のグラデーション。
それを記録することの難しさを、今ここで改めて感じています。
遠距離ライターの私は、年に数回、あいにくるわけですが、
そのたびに彼らは、

前までの彼ら自身を、更新していくのです。
上書きなんです。だから毎度びっくりする。
びっくりして、飲まれちゃいます。今の彼らの必死さに。

高みの見物なんて、できません。
彼らが悲しい時はこっちも悲しい。嬉しい時はこっちも嬉しい。
かといって、あの輪の中へ飛び込んでいくこともできません。
稽古場や劇場の片隅で、暗がりで、人知れず喜怒哀楽しているのです。

IMG_2009

この1年、チェリヴァに通い詰めたお客さんたちも、
きっとそんな感じなんじゃないかな。

劇場が退館時間を迎えた後は、みんなでサイトー家に集結。
こたつの周りで、それぞれが、せりふを覚えたり、打ち合わせをしたり。
別々のことをしながら、同じ空間で、同じ空を目指して駆け上がります。

ラスト1日。
最終日もつぶさにレポートしてまいります!

 

あきふみさんのこの姿も、今日が最後。

あきふみさんのこの姿も、今日が最後。

 

 

 

ライター小川志津子の、ウンナン滞在記〜12月30日〜

2016年2月8日 月曜日

この文章が皆さんに読まれる頃、すでにすべては終わっているのだと思います。
12月29日、さくちゃんこと松島彩ちゃんが、ハタチ族を離れました。

その日、私は初めて稽古を見学できることになり、
電源が取れる壁際に陣取って、パソコンを開き、
みんなが集まるのを待っていました。

彼女が現れて、サイトーくんが話しかけ、あることについて議論が始まり、
そのままふたりの会話は温度を上げてゆき、平行線をたどり、その間、
私は稽古場の隅っこで、パソコンから目線を上げられずにいました。

それぞれが大切にしたい「義」を、両方とも同時に立てることはできない。
ふたりの口から聞こえてきたのは、そんな悲しい音色でした。

凍りつく稽古場に、何も知らない元晴くんがガラガラっ!と入ってきました。
「おっはようございまーす!」

でも次の瞬間、彼は空気を察して、静かに腰を下ろします。

私は、この人たちと、袂を分かつほかない。
彼女は、そう決めたようでした。

彼女が去ったあとの稽古場の空気は、重くて固くて四角くて

とにかくみんなが、とても悲しい気持ちでいることだけは、よくわかるのです。

思えばちょうど1年前。

「私は、『365日公演をやりきった』という称号が、是が非でも欲しいんです」

去年の今ごろ、ハタチ族全員で決起集会の座談会をした時、
さくちゃんが凛と口にしたことです。

だからこそ、彼女も帰りの車中で途方もなく悲しかっただろうし、
ひょっとしたらこれから先も、何かにつけて、
今起きたことに心を締め付けられるのだろうと思うと胸が痛みます。

休憩時間を挟んで、メンバーが円陣を組んで座ります。
自分たちにできることは、芝居を面白くすることだけだと、
改めて確認しあって稽古が始まります。

作られ始めたお芝居は、稽古場での珍風景とか不思議な風習とか、
とにかく「エンゲキ」ってやつの滑稽さをちょっと笑いつつも、
結局、胸が熱くなるような、
エンゲキ人であってもなくても「セーシュン」を思い返してしまうような、
そんな物語(の予定)。

翌30日。最後のワンマンショーの終わり際、サイトーくんは、
昨日起きたことをお客さんに説明しました。

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表情を殺すでもなく、かといって感情丸出しでもなく、
そこにはただ、「面白い芝居にします!」という宣言だけがありました。

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今はそのワンマンショーが終わったところ。
お客さんが、なかなか、場を離れようとしません。
きっとそれぞれに、何らかの思いがあるのでしょう。

この日の朝、台本は完成したそうです。
その稽古がこの後、劇団員総力戦で繰り広げられます。

明日の今ごろ。
劇団員も観客もみんな、どんな顔をして劇場を出るのか。
劇場を出たとき、どんな気持ちに包まれているのか。

想像がつきません。
だからここから、ただ、見つめようと思います。

 

 

12月30日『西藤将人の、ファイナルマンデーワンマンSHOW!!』にお越しいただいた43名さま、ありがとうございました!!

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あと、1日!!