ライター小川志津子の、決戦前夜密着記


この場所からの景色を、私はとてもよく覚えています。
2012年3月。「あいにいく」という自主制作サイトで、
創作市民劇を制作中の亀尾佳宏先生を取材するために、
まず最初に足を踏み入れたのが、この空間でした。
http://www.ai-ni-iku.com/ai-ni-iku/ep01/ep01_01.html

チェリヴァホールの、上手寄り最後列。
客電がついていてもなお薄暗がりのこの場所から、
私はどぎまぎしながら、準備が進む舞台上を見つめていたのです。

そこから4年近くが経って、
私はまた、同じ場所から、同じ舞台を見つめています。

あの時、亀尾先生がいた席に、
今は、サイトーくんが、着いています。

あの時は俳優として、亀尾先生から大きな信頼を置かれていたサイトーくんとオーハラさん。
音響卓で、大学を辞める辞めないで揺れ揺れの心を明かしてくれた、ちみちゃん。
だいすけくんも照明卓で、助っ人として参戦しています。
とても懐かしい顔ぶれです。けれどあの頃とははっきりと、みんな違う顔をしている。

今その成長と変化のグラデーションを、一生懸命思い出そうとしているのですが、
なかなか記憶が像を結びません。

彼ら彼女らは今、劇場で、それぞれの作業をしています。
今日は公演前日。舞台セットも組み上がった状態。
とても静かです。

この日の朝、書き上がったという原稿を、
彼らは明日の13時までに、1本のお芝居に仕立てあげなくてはなりません。
現在、15時40分。

台本持ってきましたー
まっつんこと、松浦くんが劇場に入ってきます。
みんなが舞台際に集まって、何やら話をしています。

ここから先は、この場所から見える景色を、書いていこうと思うのです。

15時53分。
冒頭から登場するサイトーくんと元晴くんが、
できたてほやほやの台本を手にして、初めての立ち稽古です。
そう、初見でいきなり立ち稽古。
多くのカンパニーが数日間、あるいは一週間かけたりもする「読み合わせ」を、
全面的にすっとばしての立ち稽古です。

役柄上、上から場を仕切る係を任せられた元晴くんのつぶやきが聞こえます。
「うわあ……僕が一番ニガテとするところじゃないっすか……」
「大丈夫! 落ち着けば!」サイトーくんが言います。
それが一番難しいんじゃないのか。と思ったりしたりしなかったり。

16時10分。
今回、カメオ出演する亀尾先生が劇場入りです。
その出演シーンを、サイトーくんと元晴くんが先生に説明しています。
にわかに湧き上がる男3人の笑い声。

……つまり、さっきまでの立ち稽古、一時中断。

エンゲキをとりまく時間というのは、こうして複雑に絡み合いながら、
まるで魔法のように、あっという間に過ぎるのです。
古今東西。万国共通。

16時30分、立ち稽古再開。
一語一語のテンポやトーンを確かめながら進んでいきます。
すると台本を全部読み終えた亀尾先生がやってきて、その感想を言い、
「ここが弱いんじゃない?」「こうしたらいいのかも」的な話が始まりました。

……あれっ。さっきの立ち稽古……。

IMG_2013

時間を追うことはもうやめよう。
密着ライターはそう悟ります。
ここで大切なのは時間の整理整頓ではない。
彼らがこの状況で、どれだけ前を向いているか、なのです。

照明卓ではオーハラさんが、着々と明かりを作っていきます。
こういう時のオーハラさんが、実は大好きなのです。
見せたい絵が、具体的にある。それをみんなに、はっきりと示す。
状況が変われば即座に対応。焦らず、臨機応変に。

客席前方に目をやると、亀尾先生が元晴くんのせりふ合わせにつきあっています。
「つきあう」っていうか「本意気」です。
だって一分のすきもなく、すべてが前に進んでいなくちゃいけません。
総力戦。劇団員じゃない人もひっくるめて。

さあそろそろ「動き付け」をしようか。
……いや待て、それを「バミる」ためには、
舞台上の装置の位置を決めなくちゃならない。
あの家具があそこにあるということは、照明を動かした方がいいのかも。
今あるものだけじゃ物足りないかな。もっと何か持ってこようか。
いやいや、今は、劇場でしかできない作業をしようよ。

劇場全体を見渡すと、何とも、とりとめがないのです。
けれどこの先に、何らかの成果が、つながっているのだと信じるしかない。

あきふみさんの出演シーン作りが始まります。
サイトーくんが動きを説明して、明かりをつけて、実際にやってみます。

……100点。

「あきふみさん、今の、100点です! 僕の想像通り!」

仕事を終えたこまちゃんも参戦します。
歌を披露します。見せ場がたんまりとあります。
でも、動じてない。にこにこと指示を受けています。

サイトーくんの指示も揺らぎがない。
すーっごいくだらない芝居を、すーっごいまっすぐにつけています。

365日の経験値を、なめちゃいけません。
エンゲキにまつわるあらゆる筋肉が、彼らには今、
最高潮につきまくっているのです。○イザップもびっくり。
台本完成の翌日に本番なんて朝飯前、ちゃんちゃらおかしいのです。

成長と変化のグラデーション。
それを記録することの難しさを、今ここで改めて感じています。
遠距離ライターの私は、年に数回、あいにくるわけですが、
そのたびに彼らは、

前までの彼ら自身を、更新していくのです。
上書きなんです。だから毎度びっくりする。
びっくりして、飲まれちゃいます。今の彼らの必死さに。

高みの見物なんて、できません。
彼らが悲しい時はこっちも悲しい。嬉しい時はこっちも嬉しい。
かといって、あの輪の中へ飛び込んでいくこともできません。
稽古場や劇場の片隅で、暗がりで、人知れず喜怒哀楽しているのです。

IMG_2009

この1年、チェリヴァに通い詰めたお客さんたちも、
きっとそんな感じなんじゃないかな。

劇場が退館時間を迎えた後は、みんなでサイトー家に集結。
こたつの周りで、それぞれが、せりふを覚えたり、打ち合わせをしたり。
別々のことをしながら、同じ空間で、同じ空を目指して駆け上がります。

ラスト1日。
最終日もつぶさにレポートしてまいります!

 

あきふみさんのこの姿も、今日が最後。

あきふみさんのこの姿も、今日が最後。

 

 

 

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