どうもこんにちは。ライター小川です。
今日は朝から「こども劇場」の日でした。
まずは「出張こども劇場」。
地域在住のちびっ子が大集合したクリスマス会です。
大部屋いっぱいにひしめきあうちびっ子たちを前に、
我らがオーハラさんが「赤鼻のトナカイ」のエピソードを演じます。
主人公のルドルフは、ひとりぼっちなのだけれど、
ひとりずつ仲間を増やして、連携プレイのようにピンチを乗り越えてゆきます。
その仲間たちを全部、オーハラさんが演じるのです。
ぎゃんぎゃん騒いでたちびっ子たちも、物語がすべりだすと、
だんだん舞台に集中していくのが見て取れます。
ちびっ子たちの目にはきっと、それぞれの人物像や、
雪や山や空が見えていたに違いないのです。
お昼休憩を挟んで「軒下ガールズ」の二人と合流。
20時開演の『星の王子さま』に向けての稽古です。
なにせ3人の眼の色が違うのです。
最小限のあいさつを交わしたら、あとはそれぞれが、
自分のせりふをさらっています。
それぞれのせりふの大合唱が、波になって押し寄せてくるようでした。
何だろう、さわれない、立ち入れない感じ。
こういう時はむやみに立ち入らないのが外野ライターの得策です。
別の部屋で雲南市民劇の皆さんが稽古していたのでそちらに潜入。
私が木次を訪れるようになったのは3年9ヶ月前、
この市民劇が初めて行われた時でした。
舞台に関しては右も左もわからない雲南市民の皆さんが、
手さぐりで、でもわからないからこその爆発力で、
大きなドラマをうねくりかえらせていたのを覚えています。
それから時間が経って、今日、目にした皆さんは、
何というか、とても「両足で立ってる」感じがしたのです。
あの時のふわふわと上気したお祭り騒ぎではなく。
それぞれが、「芝居」と「生活」の距離感を獲得している。
両者を適度に行き交うことの喜びをすでに知っている。
皆、あの時とはまるで違う顔をしています。
稽古場を出て、『星の王子さま』班に戻ります。
ちょうど通し稽古が終盤を迎えた頃でした。
……その時点では、とてもはらはらする展開でした。つまり、
プロンプなしでは、芝居がところどころ、止まってしまうくらいの感じ。
だったのですが。
そこからがこの三人娘の底力なのです。
お客さんが入って、芝居が動き出すと、なんかもう、
ぎゅーん!と音がしそうな集中力が、舞台全体を引っ張っているのがわかります。
オーハラさんの王子さまは、とても哀しみを湛えた少年です。
愛するバラの花と別れてしまった哀しみ。
友だちになれたキツネと別れる哀しみ。
自分の星に帰るすべが、ひとつしかないことを悟り、
それを飛行士に告げる哀しみ。
3年9ヶ月前を思い出します。
彼女が演じていたのは子供時代の「ヤマタ」。
奔放で、大きな口でげらげらと笑う少年でした。
あの笑顔が猛烈に見たい。
そう願ってしまうくらい、哀しい王子さま。
さくちゃんは彼の物語を語り、そして見つめる飛行士役です。
能動的に動きを見せる役柄ではありません。
王子さまが投げるボールを、受け取り、戸惑う。
ようやく投げ返せるようになった頃、別れが訪れるのです。
そう、訪れる別れを知りながら見つめる人。
大晦日を期にハタチ族を離れる彼女は、
自分の思いを役に重ねていたでしょうか。
こまちゃんは何だかもういろいろ全部を担う人でした。
王子さまが出会い別れたあらゆるものたちを演じ分けます。
観客の多くは、「声色」とか「仕草」とかで多様に「演じ分ける」ことを、
「役者の巧さ」だと勘違いする傾向があるように思うのですが、
それってどうも違うと思うのです。ほんのひと声、そして大きな笑顔で、
まず観客の心をほどく「愛され力」。それこそが最強。
「愛しさ」は「巧さ」を凌駕するのです。
気づけば客席は満員御礼。
カーテンコールでやっと三人の晴れやかな笑顔を見て、
お客さんも皆笑顔で帰っていきます。
正直に言ってしまうと、私は『星の王子さま』の物語を、
ちゃんと読んだことはありませんでした。
「王子さま」が「バラ」を怒らせてしょぼくれながら、
随所に名言格言を散りばめてゆくおとぎ話、ぐらいの印象。
こんなに王子さまが痛ましい物語だったとは。
心臓がぎゅううってなりました。
次はねー、大爆笑してる三人が観たいな!
大晦日、それが観れるといいな!
明日は『あきふみは待ちながら』。
二ヶ月前、その作品の誕生に立ちあった身としては、
進化型が観られる気がしてわくわくしておりますよ。
12/23 軒下ガールズ×こども劇場『星の王子さま』終演後の様子。